2021年4月8日木曜日

斧と薪割

 



薪ストーブの普及やキャンプでの焚き火人気のためか、斧を買い求める方が増えています。あるとき県内の有名な薪ストーブ屋さんを覗くと、数万円の洋斧がたくさん展示されてました。うわあ、いまさらながらに、ブランド斧の人気の高さを実家することができました。


私の家には薪ストーブはありませんが、ご近所の友人のお宅には、薪ストーブや高級洋酒のキャビネット、おっと、お玄関先には高級ドイツ車を守る屋根まで、素晴らしい設備(財産とも申します)があります。あるとき、ちょっとお邪魔して薪割りをお手伝いさせていただいたのですよ。決して汗をかいた後の冷えた泡が欲しかったからではありません。庭先の丸太台の上に立てた丸太に、斧がスパァンと喰い込む、瞬時にパカァンと割れる、そんな光景を思い描いて。ところが、友人が割ろうとしても、私が替わっても、喰いつくばかりで鮮やかには割れてくれません。私は斧頭を眺めて、その理由がわかりました。


友人の斧は、斧であって薪割ではなかったのです。

彼は高額なドイツ車を所有しながらも、薪割を持っていなかったということです。



これはその時の友人宅の斧ではありませんが、手元にある【斧】と【薪割】を見比べたものです。左が【薪割】で、右が【斧】です。

どちらも小ぶりのもので、片手で振り下ろすような代物ですが、刃厚が全く異なることがお判りいただけますでしょうか。薪割り用の斧【薪割】は、このように分厚い刃体を持ち、その厚み故に薪に食い込んだ瞬間、対象物を左右に割り広げる力が働くのです。一方、木を削るための手斧、【斧】は、分厚い刃体ではありません。スプーンを削る、などの作業で丁寧に木を削り取っていくためには、厚さよりも鋭さ、切れ味が求められます。

ブッシュクラフトナイフと呼ばれる種類のナイフでも、刃厚が3.2ミリだ4.5ミリだと指摘されることがあります。この刃厚が、バトニングの作業性(割り易さ)や刃保ちに関係してくるのですね。

上の【薪割】と【斧】ですが、仕事の中身が異なるために刃付けも全く異なります。私の場合【薪割】には鋭い刃付けを行わず、鈍いぐらいのコンベックスグラインドを施してあります。これは強い力で叩きつける作業で刃こぼれを起こさないためです。一方の【斧】はコピー用紙が切れるぐらいまでは研ぎ上げますが、ハマグリの形状は必要であるため、刃先はコンベックスとしてあります。


手前が【斧】で奥が【薪割】です。ハマグリの形状をご覧いただくことができると思います。革砥で仕上げを行ったためにきれいに輝いています。



実はこれらの斧や薪割は、古道具市などで見つけては買い求めたものです。真っ赤に錆びついたようなものも多く、また作られ方があまり丁寧でなく腐食や損傷が進んでいる物もあります。そんな中から腕のいい職人が鍛えたものを探し出しては、集めているのです。私もそろそろ、と鍛冶仕事でこういったものを作るための勉強をしており、その一環で古い道具たちの作られ方、使われ方、手入れの仕方などを学んでいる訳です。



これは先日、近くの湖のほとりの木陰で、ファットウッド、松脂の詰まった枝の採集加工を行っていた日のひとコマです。鋸で切り出した【ファットウッド】から、本記事で取り上げた手斧を使って不要な部分を削り落とし、手製のプーッコで仕上げた様子です(このプーッコのことは別な記事でご紹介しましょう)。手斧の柄は北海道産のタモの端材を使用しました。



柄を作っている様子が写真に残っていました。庭先で日向ぼっこしながら、鋸とプーッコで削り出しを行っています。電動工具を使えば簡単な話ですが、最初に作る種類の道具は、一度できる限り(の範囲内ですが)手作業で行うことにしています。素材の性質、道具としての機能、いろいろと考え突き詰めると、どうしても必要なことに思えてくるからです。柄は、段ボールを積層してモックアップを拵え、曲がり角度や太さ長さを検討しました。短く持って削る、長く持って振り下ろす、そうした作業を検証した結果がこの形状となりました。



柄を削る作業では、国内では珍しいドロップポイントのプーッコを使用しています。これも手製なのですが、仕事に使ってみると道具としてのいろんなことが理解できるものですね。木の素材の「アールの内側」を削るときには、これが本領を発揮します。まさにクラフトの為のプーッコ、複雑な曲面を削りだしていくためのブレード形状です。これについても別項でご紹介することにいたしましょう。


 【斧】と【薪割】の話から随分と脱線してしまったようです。

引き続き各地の古道具市を覗いて回ります。斧頭を見つけたら、出来の良いものをリメイクし、しっかりと研ぎ上げてあらたな柄を拵え、ご希望の方にはお届けできる日も近いと思います。もう少しだけ、お時間をください。








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