2021年5月9日日曜日

Lauri Skinner 90

さて、次なるプーッコのことを少し書いておきましょう。GWが明けたいま、このプーッコについてはレザーシースを作っている段階です。シースが仕上がって仕上げ研ぎを施しましたら、とあるwebショップのほうに置かせていただこうかと思案しております。無事に完成した後のことは、またここで写真を更新し、情報も追加いたしましょう。


このプーッコ、Lauri社の「スキナー90」というブレードを使用した作品です。現在のところ一本だけを取り寄せての試作のような具合ですが、出来上がりの様子を見て、今後の計画を立てたいと思います。ブレードの鋼材は80CrV2、HRC硬度は59とのこと。ブレード長90ミリ、シクネス3.2、ごらんの通り大きくアールを描いたフォルムが特徴です。スキナーという通り、れっきとしたハンティング・ナイフ。獲物を解体する折りに「皮を剥ぐ」を言う作業に使用されるブレードです。このアールの部分を滑らせるように動かして、皮と筋肉の間の脂肪層や膜を切り裂くためのものです。

私の推測ですが、まだ日本にはほとんど入ってきておりません。Lauri社によるファクトリー・メイドのブレード自体は、じつは入手可能な複数の別なブランドのプーッコに採用されており、国内でも見かけることがあります。けれど、このスキナー90を使用している、または所有しているという情報はいまのところ得られず、キャンプ場やフィールドで「被り」が起きることはまずないでしょう。それほどに珍しいアイテムですが、北欧やロシアのプーッコ・メーカーたちには大人気です。試しに動画サイトなどで検索しますと、実に多数の作品に出合うことができますよ。



ブレード幅が26ミリと広めなのですが、タングの根元の幅も16ミリほどあります。力いっぱい叩くようなバドニングでは抗議の叫びを発しそうですが、アウトドアでのユーティリティ・ナイフとして提案してみたいという企てなのです。




拵(こしら)えに悩む、ということが、カスタムナイフやプーッコメイキングの醍醐味ともいえるでしょう。上に書きましたようなこのブレード、美しく飾るか、質実剛健な道具として極めるか、あれこれ考えを巡らせるのです。当初、紫檀系のハンドル材を考えていたのですが、近ごろ取り組んでいる日本の白樫、これで行こうと決めました。強度、木目の美しさ、質感、経年変化による愛着、私自身のメイン・プーッコに白樫を採用してからお気に入りの素材なのです。ボルスターは真鍮ではなくスタッグ・ホーン(今回は蝦夷鹿)。アクセントにブラックのスペーサとブラスを飾りましたが、あくまでも「使うための道具」に徹するデザインです。



ハンドルを組んでから48時間後。手作業で削りを行います。ベルトサンダーで一気に仕上げうよりも、この手作業の削りが楽しいのです。ごりごり、がりがり、素材の中に眠っている道具としての形状を探します。一点作ってしまえば、じつは2本目からは電動工具を多用するのですが、最初はなるべく、なるべく。




途中何度も握っては削り、眺めては削り。この繰り返しです。




おおよそのプロファイルが見えてきたところで面取りに入ります。何度も握りながらの、根気のいる作業です。大まかな面取りができたら、春爛漫の庭の日向へ移動。芝生の上に胡坐をかいてのサンドペーパー掛けです。80番ぐらいから始まって400番まで。手作業で生じた傷や微細な凹凸を探しながら、ひたすら磨きます。着ている黒いつなぎ服がベージュになるぐらい....。




いかがでしょうか。日本産白樫材の木目です。大工道具として古くから使われてきた、おなじみの美しさですね。

ここでハンドル表面に満足できたら、ドレメルを使用します。電動のリュータのことです。円形のサンドペーパーを当てながら3000番まで磨きます。あとは亜麻仁油を何度か塗りましてシースづくりへ。



まだ国内では珍しい、Lauri社のSkinner90を採用した白樫ハンドルのプーッコ、完成間近です。シースはトラディショナルな北欧デザインの形状とし、レザーを黒で染めようか、などと考えを巡らせております。まもなく皆様にもご紹介できることでしょう。どうぞお楽しみに。







【追記】

製作中にやらかしまして、ハンドルとブレードの軸がわずかながらに、ほんのコンマ4ぐらいですが、ズレました。やむを得ず自家用とさせていただき、 後日取り寄せるブレードでまた作り直します。




2021年4月28日水曜日

春の沢の道

 春のいち日、沢沿いの道を、少しだけ歩いてきました。



美ヶ原に連なる山塊の片隅に、地元の人でも名前を知らないような小さな沢があります。この沢を詰めて小尾根に乗ると、ある素敵なピークに登れるいわばバリエーションルートなのですが、訳もありまして沢の名前はお許しください。






集落の脇から沢に降り立ちますと、よく踏まれた道型があります。いまは使われていない休耕田や畑の名残があり、そのために永く使われてきた道なのでしょう。こんにちでは、山菜採りや茸採りに、ひっそりと歩かれている道なのです。



何度か渡渉を繰り返すと、やがて道型は細く、微かなものに変わってゆきます。渡渉の折など、どこに足を置いていいかわからなくなるほど、踏み跡は薄れていきます。注意を払えば、赤やピンクのリボンが掛けられて、いまでも山仕事の道として使われていることが伺えます。

ある瞬間、なんとなく視線のような気配のようなものを感じました。ここを歩くのは数回目。でもほとんどが積雪期で、このあたりの急斜面のへつりにアイゼンを要しています(この先のピークというのが1600m台の良い山なんです、雪が降ると出かけるというわけでして)。

気配の源を探ろうと眺めると、なんと石仏のような、神像かもしれませんが、お姿がおわしました。合掌しておられるので観音様ではないかと思うのですが、浅学のわたくしには何とも判りません。帽子を脱ぎ、手を合わせ、ご挨拶申し上げました。何度も通っていながら、気づかぬことでございましたよ。雪の下にそっと佇んでおられたのでしょう。





昨今は、こうしたのぼとけを持ち去るような不心得者もいると聞きます。そのこともありまして、沢の名前を控えさせていただきました。ご理解くださいませ。




昼前から午後にかけて、倒木に腰掛け、鳥の声を聴き、風もない春の日の陽射しを愉しみ、小さな谷の小さな沢の流れを眺めておりました。流れはさらさらと、もう雪解け水もありませんからせせらぎのような様子です。




滑滝のような流れが続きます。最初に訪れたときは、地下足袋に沢登り装備を携えておりました。清らかな流れにひとり身を浸し、最奥の堰堤まで登って行ったものです。




たしか、天然の山葵の群落があったはず、とおもって窪地を覗くと、いくつもの株が葉を広げておりました。根を掘れば太いのもあることでしょう。ですが私はこの地区の住人ではありませんから、採集は遠慮しました。天然の山葵は貴重なもので、もしかしたら集落の方が毎年初夏に花を摘んだりしておられるかも。

春の日の、特に何かの主題を定めて書くようなことでもない、とりとめのない事柄でございました。







2021年4月8日木曜日

斧と薪割

 



薪ストーブの普及やキャンプでの焚き火人気のためか、斧を買い求める方が増えています。あるとき県内の有名な薪ストーブ屋さんを覗くと、数万円の洋斧がたくさん展示されてました。うわあ、いまさらながらに、ブランド斧の人気の高さを実家することができました。


私の家には薪ストーブはありませんが、ご近所の友人のお宅には、薪ストーブや高級洋酒のキャビネット、おっと、お玄関先には高級ドイツ車を守る屋根まで、素晴らしい設備(財産とも申します)があります。あるとき、ちょっとお邪魔して薪割りをお手伝いさせていただいたのですよ。決して汗をかいた後の冷えた泡が欲しかったからではありません。庭先の丸太台の上に立てた丸太に、斧がスパァンと喰い込む、瞬時にパカァンと割れる、そんな光景を思い描いて。ところが、友人が割ろうとしても、私が替わっても、喰いつくばかりで鮮やかには割れてくれません。私は斧頭を眺めて、その理由がわかりました。


友人の斧は、斧であって薪割ではなかったのです。

彼は高額なドイツ車を所有しながらも、薪割を持っていなかったということです。



これはその時の友人宅の斧ではありませんが、手元にある【斧】と【薪割】を見比べたものです。左が【薪割】で、右が【斧】です。

どちらも小ぶりのもので、片手で振り下ろすような代物ですが、刃厚が全く異なることがお判りいただけますでしょうか。薪割り用の斧【薪割】は、このように分厚い刃体を持ち、その厚み故に薪に食い込んだ瞬間、対象物を左右に割り広げる力が働くのです。一方、木を削るための手斧、【斧】は、分厚い刃体ではありません。スプーンを削る、などの作業で丁寧に木を削り取っていくためには、厚さよりも鋭さ、切れ味が求められます。

ブッシュクラフトナイフと呼ばれる種類のナイフでも、刃厚が3.2ミリだ4.5ミリだと指摘されることがあります。この刃厚が、バトニングの作業性(割り易さ)や刃保ちに関係してくるのですね。

上の【薪割】と【斧】ですが、仕事の中身が異なるために刃付けも全く異なります。私の場合【薪割】には鋭い刃付けを行わず、鈍いぐらいのコンベックスグラインドを施してあります。これは強い力で叩きつける作業で刃こぼれを起こさないためです。一方の【斧】はコピー用紙が切れるぐらいまでは研ぎ上げますが、ハマグリの形状は必要であるため、刃先はコンベックスとしてあります。


手前が【斧】で奥が【薪割】です。ハマグリの形状をご覧いただくことができると思います。革砥で仕上げを行ったためにきれいに輝いています。



実はこれらの斧や薪割は、古道具市などで見つけては買い求めたものです。真っ赤に錆びついたようなものも多く、また作られ方があまり丁寧でなく腐食や損傷が進んでいる物もあります。そんな中から腕のいい職人が鍛えたものを探し出しては、集めているのです。私もそろそろ、と鍛冶仕事でこういったものを作るための勉強をしており、その一環で古い道具たちの作られ方、使われ方、手入れの仕方などを学んでいる訳です。



これは先日、近くの湖のほとりの木陰で、ファットウッド、松脂の詰まった枝の採集加工を行っていた日のひとコマです。鋸で切り出した【ファットウッド】から、本記事で取り上げた手斧を使って不要な部分を削り落とし、手製のプーッコで仕上げた様子です(このプーッコのことは別な記事でご紹介しましょう)。手斧の柄は北海道産のタモの端材を使用しました。



柄を作っている様子が写真に残っていました。庭先で日向ぼっこしながら、鋸とプーッコで削り出しを行っています。電動工具を使えば簡単な話ですが、最初に作る種類の道具は、一度できる限り(の範囲内ですが)手作業で行うことにしています。素材の性質、道具としての機能、いろいろと考え突き詰めると、どうしても必要なことに思えてくるからです。柄は、段ボールを積層してモックアップを拵え、曲がり角度や太さ長さを検討しました。短く持って削る、長く持って振り下ろす、そうした作業を検証した結果がこの形状となりました。



柄を削る作業では、国内では珍しいドロップポイントのプーッコを使用しています。これも手製なのですが、仕事に使ってみると道具としてのいろんなことが理解できるものですね。木の素材の「アールの内側」を削るときには、これが本領を発揮します。まさにクラフトの為のプーッコ、複雑な曲面を削りだしていくためのブレード形状です。これについても別項でご紹介することにいたしましょう。


 【斧】と【薪割】の話から随分と脱線してしまったようです。

引き続き各地の古道具市を覗いて回ります。斧頭を見つけたら、出来の良いものをリメイクし、しっかりと研ぎ上げてあらたな柄を拵え、ご希望の方にはお届けできる日も近いと思います。もう少しだけ、お時間をください。








2021年3月28日日曜日

プーッコをつくる

 曾祖父が戦前に、九州の炭鉱のまちで野鍛治を営んでいました。

もう昔のことになりますが、高校の学習課題で身近なご先祖の生きざまなどを調べてこいとなって、週末汽車に乗って曾祖父の縁者の家に泊まり込みに行き、いろいろ聞き出したりまとめたりしたことがあります。曽祖父は鍛冶屋で大工仕事もこなしました。その長男は大工になり、孫は関西で欄間職人になっています。もう引退したでしょうか、交流も途絶えてしまいました。



私は信州の松本に流れ着き、ここでプーッコなどをつくり始めたときに曾祖父のことを思い出していました。とはいえ会ったことはありません。当時同居していた祖父母たちから普段聞かされていた身近さはあれど、仏壇に飾られた生真面目な顔で語りかけてくる曾祖父は、つまり私の先祖のひとりに過ぎません。

 曾祖父、初代作次郎が鍛えた工具や道具は、いま私の手元にはありません。田舎の家にあった玄翁や鎌の記憶は、道具たちと同じように錆び付いてしまっているか、朽ち果てているだろうと思います。

時を経て、いま私が野外道具を工夫して手作りしたり、できない仕事は誰かの世話になったりではじめるようになって、曾祖父から何がしからの物を受け継いでいけるだろうかと自問しています。道具を作ること。誰かの仕事を助けること。二、三年のうちに鍜治場をこしらえて鍛造を行うこと。私に残された時間の中でどこまでやれるかはわかりません。それでも新しいことを含めて、手を動かしていこうと考えています。 


写真は、フィンランドのブレードメーカー、Lauri社のカーボンスチールを採用したプーッコ。欅の瘤材とレザーワッシャーでハンドルを形成。一年使用したのち、親友に贈りましたた。2019年8月製作。







火打袋

  火打袋が欲しい。 火打石による着火を、ブッシュクラフターのスズキサトル師匠から教わって以来、火打金や火口を仕舞っておく袋を欲していました。便利に使えるだけではなく、愛着が湧く、森や野に過ごす時間の相棒です。     これらは過去に作ったものですが、間に合わせの端切れを縫い付け...